小学校から中学校に上がる際の「中1ギャップ」という言葉があります。
中学校に入学したものの、その環境の変化についていけず、学習への意欲が無くなってしまったり、不登校になってしまったりするという問題です。
以前からそのようなことは長く言われていて、私の地域では小学校と中学校の教員が連携して情報交換をする場を定期的に設けたり、お互いの授業を見せ合ったりしています。また、実際に小学生が中学校に授業や行事の体験に行くなどのこともして、その「中1ギャップ」を埋めるために方策を立てています。
私の地域では小学校の先生と中学校の先生が日常的に関係が深く、研究会なども合同で行なっていることもあり、自分が経験してきた他の地域と比べると、中1の段階で急に苦しむ子は少ないなと感じています。
そんな中、今年度も春の定期総会で小学校と中学校の教員が顔合わせと合同の研修会を行いました。その時の話を少ししたいと思います。
研修会の中で、中学校1年生の担任と、小学校の時に担任していた教員が情報交換する機会がありました。
今の子どもたちの様子を中学校側が話し、問題となる行動が見られる子は以前からその傾向があったのかや、不登校傾向の子にはどのような声がけをしていたのかなどを小学校側が答えるといった形でした。
そんな話をしていて、ある児童の話になりました。
「授業を妨害するといった害は全くないんだけれど、九九もおぼつかないほど学習面で遅れているのですが、この児童にはどのような対応をされていましたか?」
という質問が出されました。
中学校は2年後、受験という現実が控えています。
それを見越してこのような発言になったのですが、その時私は思ったのです。
ああ、本当にすべきケアができていなかったのかもしれないなあ、と。
実はこの児童は、学力が非常に低く、発達障害的な面もあったため、4年生までは教室でしっかり授業を受けることができず、廊下を徘徊したり、別室に篭ったりとしていた児童だったのです。
5年生になり、私が担任になりました。
その時の目標は「まず教室でしっかり授業を受ける」ということだったので、その子自身と信頼関係を築き、授業についても興味を持てるような仕掛けをするなどして、なんとか問題なく教室で授業を受けるようになっていきました。
保護者も大変満足してくれて、4年生の頃のようにしょっちゅう学校に呼び出されて面談をすることもなくなり、感謝の言葉もいただきました。
そして6年生になり、私は担任ではなくなりましたが、その子は授業自体には問題なく参加し、抜け出したり徘徊したりといったことは全くありませんでした。
ですがやはり、学習内容を理解していたわけではなかったのです。
中学校側からすれば、
「なんでこの子はこんなにできないんだろう」
と思っても無理はないのです。
そしてその時私は
「もっと早く手を打つべきだったのではないか」
と思ったのです。
実はこの学年は6年生になってから、生徒指導面での問題が数多く噴出し、学級担任がその指導に追われていました。至る所から対応が求められる事案が出てきて、私も学年のフォローに当たっていました。とにかく、問題の多い学年だったのです。
生徒指導面の指導はスピードが求められます。対応を早く打たないとより悪い結果が待っていることが多いからです。児童に対しても、保護者に対しても、周囲の子に対しても、できるだけ素早い対応が必要です。ですから、なるべく「今すぐやる」ことが大切です。
反対に、発達に問題を抱える児童への場合の対応は、慎重さが求められます。児童に対しても、保護者に対しても、より丁寧な説明と実態の把握が必要です。逆の言い方をすれば、「今やらなくても良い」のです。
そんな状況の中で、目の前の生徒指導に追われ、結果的に周囲に害のない児童への対応が後回しになってしまった感は否めないのです。
子供の一年というのは本当に早く、大きいです。
発達に問題のある子は、その環境にストレスを感じている場合が多く、できるだけ早くそれを除いてあげることが、成長につながります。
慎重さは求められますが、迅速に進めることも必要なんだよなと、自戒するのです。